今、日本は世界一の長寿国となり、65歳以上の高齢者は3,000万人を超え、全人口の四分の一を占めるほどになっています。けれども、その健康状態をみると、亡くなる10年くらい前から病気や寝たきりとなり、
医療や介護のサポートなしには生活できないという方が少なからずおられます。原因となる疾患は脳出血や脳梗塞、くも膜下出血など、脳の疾患が多く、特に今、増加傾向にある認知症は、一人ひとりが最期まで自立した生活を送るのを妨げる大きな要因のひとつと指摘されています。
「ただ長生きするのではなく、歳を重ねても脳が健康で、自立した生活を送るにはどうすればよいのか?」、これは誰でも叶えたい願いだと思います。脳のMRI画像の研究から、認知症や脳の疾患を未然に防ぐには日々の生活習慣が大切であるということが見えてきました。
これまで私は子どもからお年寄りまで非常にたくさんの方々の脳のMRI画像を見てきました。その数は約16万人にも上ります。同時に、その方達の生活習慣、認知力、遺伝子情報をデータベース化。
特に昨今のMRI画像の進化は著しく、脳の形だけでなく、脳の機能、血液の流れている量はもとより、白質と呼ばれる脳のネットワークが集まっている場所のネットワークがどちらの方向にどの程度揃っているかなどの情報まで見ることができます。
脳のMRI画像というのは興味深く、その人の生活習慣など、人生の履歴というようなものが見えてくることがあります。
例えば70代の方でも生活習慣に気をつけられて、身だしなみにも気を配っておられる方の脳のMRI画像を見ると、委縮が少なく、50代から60代の脳にしか見えないほど若々しいことがあったり、逆に若い方でも生活習慣がおざなりで身なりにもかまわず老けこんでいる方は脳に委縮が見られ、老化が進んでいる場合があります。
若くても高血圧や糖尿病、高脂血症など、何か既往がある方にも脳が委縮しているケースがよく見られます。脳のMRI画像を見るだけで、その方のおおよその年齢や老化度、既往、生活習慣などが何となく見えてくるから不思議です。
今まで脳は大人になるともう成長することなく、衰えていくだけだと思われていました。しかし、いくつになっても脳は、その機能を高めることができることが最近の研究からわかってきました。
例えば、少しでも脳を変化させる生活習慣やトレーニングを試みると、高齢の方でも脳の形態や機能が高められます。どの段階から始めても必ず変化が起きて脳は活性化するので、脳に良い変化を促す生活習慣をいろいろ取り入れることが認知症などの予防にも繋がっていくのではないかということです。
様々なエビデンスから認知症リスクを下げ、脳に良い影響を与えると言われている重要な生活習慣は「会話・食事・運動・睡眠」の4つです。
その4つの生活習慣の舞台となるのはどこかと言いますと、人生の大半を過ごす「住まい」です。だから、「住環境」も「生活習慣」とともに認知症リスクを下げる要因として非常に重要であると考えています。
特に最近はご高齢者の独居が増えてきています。もちろん、ひとり暮らしを楽しまれている方もおられると思いますが、会話や地域の方達との交流機会が少なくなりがちという側面や、何かあった時の不安という問題があります。
もしプライバシーが守られるスペースと、同世代の方達やご家族、地域の方達と交流できるコミュニケーションスペースの両方を備え、食事や趣味、運動を楽しみ、リラックスして眠ることができる「高齢者向けの住まい」というものがあれば、それは素晴らしく生き生きとした生涯を送ることができるのではないでしょうか。
そこで、脳に良い影響を与える4つの生活習慣「会話」、「食事」、「運動」、「睡眠」を積極的に取り入れた「住環境」を、住宅メーカーのセキスイハイムと協業で取り組むことになりました。「話・食・動・眠」を設計コンセプトに導入した、新しい高齢者向け住宅「ハイムガーデン仙台泉」が間もなく仙台市に開設されますのでご期待ください。